みなさん、こんにちは。久保です。

9月はウエイトリフティング指導員講習会へ行ったり、仙台へ遠征へ行ったりと、なかなか実ある月となりました。諸々の詳細は個人ゴトになってしまうので、またブログにてご報告させていただきます。

さて、今日の話題は「運動前の糖質摂取」についてです。私は学部生の頃(確か1年生の後半あたり)にボディビルダーの圧倒的な肉体に憧れて、いわゆる筋トレを始めました。そこからいろんな大手ジムのアルバイトを経験するわけですが、当時はクライアントさんに「運動前の糖質摂取は”インスリンショック”を引き起こしてパフォーマンスを低下させてしまうのでやめましょう」という指導をしていました。

あれから月日が経っていろんなことを学ぶうちに、こんなことを耳にするようになります。

日本人でインスリンショックは起こらない

これを聞いた時は「んなアホなーーwwww」と思っていましたが、どうやら調べていくとこれにはいろんな要素が絡み合っているのだと知りました。前置きが長くなりましたが、項目に分けてご説明していきます。

 

そもそも「インスリンショック」とは

インスリンショックとは、運動前に糖質を摂取(摂取量に関しては諸説あり)すると、血糖値を下げようとしてインスリンが急激に分泌されてしまい、それに伴った低血糖、運動パフォーマンスの低下が引き起こされる。というものです。管理栄養士の教科書にも出てくるようですね。

これを口語にすると「運動前の(中ー多量の)糖質摂取はやめよう」となります。

 

「インスリンショック」という言葉

では、「インスリンショック」という言葉はどこでどのように作られて、広まったのでしょうか。それを調べようと「インスリンショック(insulin shock)」という言葉で文献検索をしようとしても、糖質と運動パフォーマンスに関わる論文が見つかりません。それもそのはず、「インリンショック」という言葉を使っているのが日本特有である、さらには誰が言い出したのかわからない、ということがわかったのです。

では、いわゆるインスリンショックは英語でなんというかというと「exercise induced hypoglycemia(運動誘発性低血糖)」とか「insulin spike」という言葉で表現されているのでした。

まぁ、言葉の違いはあれど、意味は同じなのでこの辺は大した問題ではありません。ですが、以下「インスリンショック」を「運動誘発性低血糖」という言葉で統一したいと思います。

 

低血糖の定義

さらに「じゃあ、低血糖ってなんだ?」ということを調べていくと、低血糖の定義が論文、機関ごとに違うことが明らかになってきました。

1982年に持久性運動中の低血糖を検討したPhillip et al.が低血糖の定義を45mg/dl以下と定めている(1)のに対して、日本の機関である「国立国際医療研究センター研究所」によると、「低血糖は70mg/dl以下」と定義されています。

 

人種の問題

筋トレのフォームが人それぞれ違うように、インスリンの分泌能、抵抗性も人種によって大きな違いがあることが知られています。中でも、人種間(アフリカ、コケイジアン、東アジア)のインスリン感受性、分泌能の違いを検討したKodama et al., (2013)は、①アフリカ系人種はインスリン分泌能が高いが、感受性が低い。②コケイジアンは分泌能も感受性も中くらい。③アジア系は分泌能が低く感受性に優れている。ということを明らかにしました(2)(以下図参照)

さらに、運動誘発性低血糖を検討した研究のほとんどは欧米諸国のものであり、被験者ももちろん欧米人なので、アジア人が運動誘発性低血糖を引き起こすのかどうかについては不明なのです。

 

低血糖と運動パフォーマンスについて

先ほどあげたPhillip et al.によると、持久性運動中に低血糖を引き起こした場合でも、運動パフォーマンスには起こさなかった人と比較しても差がない。ということがわかりました。

さらに、持久性運動と比較して、いわゆる筋トレ中に低血糖が引き起こることは考えにくいです。

 

脱水と勘違いしている人がいる?

しかし、現場では今なお「運動前の糖質摂取は危ない」ということがまことしやかに囁かれていますが、そもそも自分の体内で起きている脱水と低血糖を区別できる人はそうはいないと思うので、中には「脱水症状」の体験談を「低血糖だ」として語っている人も少なくない印象です。

 

まとめ

「インスリンショック」という言葉は、管理栄養士の資格取得のための教科書に出てくるくらいの「常識」です。しかし、その言葉の根を掘ってみると、そもそも「インスリンショック」という言葉がグローバルな言葉ではないことや、誰が言い出したのかわからない、という問題点があります。

さらに、そもそもインスリン分泌能、抵抗性などは人種によって大きく異なることが知られているのに、先行研究で「インスリンショック」を検討したものはほとんどが欧米発のもので、日本人を対象にしたものはありません。

しかも、運動中に低血糖が起こってもパフォーマンスには影響がないこと、さらには筋トレ中に低血糖が起こりにくいことなどを踏まえると「運動前の糖質摂取は避けたほうがいい」というのは現段階ではあまり信用できる説ではありません。

 

参考文献

1. Felig P, Cherif A, Minagawa A, Wahren J. Hypoglycemia during prolonged exercise in normal men. N Engl J Med. 1982;306(15):895-900.

2. Kodama K, Tojjar D, Yamada S, Toda K, Patel CJ, Butte AJ. Ethnic differences in the relationship between insulin sensitivity and insulin response: a systematic review and meta-analysis. Diabetes Care. 2013;36(6):1789-96.