皆様、初めまして。

この度、Strong Geniusにてコラムを執筆させていただくことになりました久保孝史(くぼたかふみ)と申します。

木下さんからもご紹介がありましたように、学部、修士を早稲田大学で過ごしまして、現在は博士課程にてレジスタンストレーニングについての研究を行っています。また、並行してS&Cコーチとしても活動しておりまして、様々な種類の競技、高校生から実業団の選手を対象に指導させていただいております。

修士を修了し、現在研究を行っている身として、少しでも多くの方に正しい知識を持ってトレーニングをしていただきたい、Strong Geniusを通して「トレーナーというものはこんなにも頼りになるものなんだ」というトレーナーの地位向上に少しでも貢献したい、という気持ちで本企画に参加させていただきました。至らぬ点も多くありますが、今後ともどうぞよろしくお願い申しあげます。

前置きが長くなりましたが、今回は「長距離選手も筋トレをしよう!」という内容でお話しさせていただきます。

空前のランニングブーム

ランニング、といえば1月2〜3日の第93回東京箱根間往復大学駅伝競走(通称:箱根駅伝)も記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。現在では、市民参加型のマラソンイベントも多く開催されており、特に東京マラソンは抽選を受けなければ走れないほど人気があるようです。

ですがこの「長距離走」というジャンルは、私のようなS&Cコーチが介入しづらいものでもあります。なぜならば「長距離に筋トレなんて必要ないでしょ、むしろマイナスなんじゃ?」と突っぱねられてしまうことが多いからです。ですが実際、長距離ランナーが筋トレをすることによって受ける恩恵は多大なものがあります。

今回はざっくりではありますが、その恩恵について紹介させていただきます。

長距離ランナーが筋トレを行うことによる恩恵

以下『筋トレ』を「トレーニング」とか「ストレングストレーニング」と呼んだりしますが、全て同じ意味だと思ってください。まず最初に、以下に図を示します。

こちらは、Aagaardら(2010)の図をこちらで改変したものです。

黒文字の「ストレングストレーニング」から始まり、青文字で示すのはストレングストレーニングを行うことによって得ることができる一次的な恩恵です。そして緑文字で示すのは一次的恩恵から得ることができる二次的な恩恵、そして最後に赤文字で示すのは、それぞれの競技パフォーマンスです。専門的用語が少し入っているので、これを分けて解説します。

ストレングストレーニングを行うと何が起こる?

ストレングストレーニングを行うとまず、神経機能の向上、速筋線維であるタイプⅡa線維の増加、腱の硬さを示す「腱スティフネス」の向上が観察されます。ここでの「スティフネス」とは、長軸方向における腱の硬さの評価のことを指しています。そして、これら三つの恩恵はさらなる恩恵を生み出します。

MVCの向上

MVCとはMaximum Voluntary Contractionの略であり、日本語では「随意最大筋力」と訳されることもあります。これは人が最大で頑張った時に発揮される力のことで、トレーニングを行うとこの能力が向上します。詳しいメカニズムについてはいろいろありますが、今回は「トレーニングを行うと力発揮能力が向上する」とだけ覚えてください。

RFDの向上

RFDとはRate of Force Developmentの略であり、日本語では「力の立ち上がり率」とか、古い教科書だと「力の立ち上がり速度」と表記しているものもあるようです。これは「いかに短い時間で力を発揮することができるか」という能力の指標であり、多くの論文で用いられています。

例えばA選手B選手がいたとして、両者ともスクワットの1RM(One Repetiton Maximum : 1RM)が100kgだったとします。A選手は0.1秒で100kg分の力を発揮できるのに対して、B選手は0.5秒しないと100kg分の力を発揮できない。この時、どちらの方が競技中のパフォーマンスに有利かというと、もちろんA選手ですよね。

動作効率の向上

動作効率の向上とは、「余計なエネルギーを使わずに、効率的な動きができるようになる」ということです。車に例えるならば「ゴリゴリのアメ車から、プリウスに変わる」みたいな感じでしょうか。正確には動作効率は最大酸素摂取量(Vo2MAX)で評価するため「動きが変わる」とは少し違う意味にはなってしまうのですが、とりあえず「トレーニングをするとエネルギーを節約できる体になる」と覚えてください。

毛細血管平均通過時間の向上

こちらはMTT(Mean Transit Time)と略されることもありますが、組織中を流れる血液の平均通過時間のことであり、エネルギー供給の効率を示しています。つまり「トレーニングをしてMTTが向上すると、エネルギー供給が効率的になる」と覚えてください。

競技力の向上

上記に述べたような様々な要素が絡み合い、短時間(0-15分)または長時間(30-180分)でのパフォーマンスが向上する。ということが報告されています。

まとめ

「筋トレ」とは、方法を間違えなければどのアスリートにも有益なものです。ですが、なぜか日本では「筋トレって、ちょっとなぁ、、、」というマイナスなイメージが先行しがちであると感じています。その代表例が長距離選手かなぁと感じていたので、今回はざっくりと「なんで長距離選手も筋トレしたほうがいいのか?」について説明させていただきました。

今後はもっと突っ込んだトレーニングのフォームであったり、セットの組み方などを紹介できたらなと思っています。

《参考文献》

  • Aagaard P, Andersen JL. Effects of strength training on endurance capacity in top-level endurance athletes. Scand J Med Sci Sports. 2010;20 Suppl 2:39-47.